SaaStr Annualってなに?
こんにちは!先日、サンフランシスコで開催された「SaaStr Annual 2025」に参加してきました。SaaStr Annualは、世界最大級のSaaS(Software as a Service)企業や投資家向けのカンファレンスです。
SaaSに特化したコンテンツを提供する米メディア「SaaStr」が主催していて、毎年サンフランシスコベイエリアで開催されています。いわば「SaaS業界のスーパーボウル」とも言える存在で、今年は世界中から10,000人以上が参加する巨大イベントになりました!
このイベントが特別なのは、HubspotのCEO、Dropboxの創業者、SnowflakeのCEOなど、トップSaaS企業のリーダーたちが実際の経験に基づいたリアルな知見を共有してくれるところ。単なる成功事例の自慢話じゃなくて、「こんな失敗したけど、こう乗り越えた」みたいな本音トークが聞けるのが個人的に好きなところです。
実に、300以上のセッションがびっしり3日間に詰まっていました。参加者の多くはスタートアップの創業者&社員や投資家で、ネットワーキングの機会も豊富。
たくさんのセッションを聞いて、いろんな人と話して、すごく刺激的な3日間でしたが、今回はイベントに参加して得られた4つの学びをシェアしたいと思います。
1. 「仕事」や「私たち人間」がAIに代替される時代
今回のカンファレンスを通して一番感じたのは、AIの影響がもはや「顧客体験の改善ツール」という存在をはるかに超えるものである、と共通して認識されてることでした。AIはもはやツールじゃなくて、「私たちの仕事」や「私たち」を代替するものになり得る存在だなあ思いました。
実際に、複数のセッションで語られていたのは、今後数年で私たちの仕事相手の多くがAIエージェントになるかもしれないという予測でした。そうなったとき、「AIに任せる部分」と「ヒトがやるべき部分」をどう線引きするかが超重要になってきそうですよね。
”coding and support these two use cases have found product market fit with AI no question we're not going back if you're not doing it you're already behind”— Yamini Rangan, CEO of Hubspot
(コーディングとカスタマーサポートの業務は、AIの方がうまくフィットしている。もう後戻りはできません)
たしかに、コーディングとカスタマーサポート業務の一部は、すでにAIが代替しつつありますよね。「AIをどう導入するか」から「AIを使って会社をどうRe-founding(創業し直すか)」に興味が移り変わっていることを感じました。AIは、もはや補完的に取り入れるものじゃなくて、ビジネスの土台そのものになってきているんですね。
2. ヒトの感情を理解すること、感情を動かすことは代替されない
AIがどんどん進化して多くの業務が自動化される中で、「AIに代替されないヒトの価値って何だろう?」という議論がめちゃくちゃ活発でした。そこで浮かび上がってきたのが、「ヒトの感情を動かす力」の重要性です。
”people buy solutions from people that they are familiar with, that they like, that they trust and that they respect”— Ross Beastman, CRO of ServiceTitan
(最終的に顧客が買いたいと思うのは、好意を持てて、尊敬できて、信頼できる相手からだよね)
ふむふむ。では、AIが得意な分野はAIに任せた上で、ヒトは「顧客の感情を動かす」仕事に専念すればいい訳ですね。では、ヒトの感情ってどうやったら動くんでしょう?なんだか、哲学的な問いですね。。
"spending time with the customers way more than you spend time in the boardroom. Good things happen when you go on site and you spend time with your customers" — Ross Beastman, CRO of ServiceTitan
(会議室で過ごすよりも、顧客と時間を過ごすこと。実際に現場に足を運んで、顧客を理解することで、良い結果が得られる)
こちらは、個人的に一番好きだったServiceTitanのセッションからの引用です。
他のセッションでも語られていましたが、SaaS企業に関して言うと、感情を動かすには、「まずは、顧客を深く理解する。そして、寄り添う、信頼される。結果として好意をもたれる。こんな、感情的なつながりが大切。」これって、結局AIが一番苦手な領域ですよね。
ビジネスでも、プロダクトや意思決定者によって違いはあれど、機能やメリットの側面だけじゃなくて、感情面ってすごく大事ですよね。その感情にどうアプローチできるかが「ヒト」の専売特許だし、大きな役割なのかなと思います。
もっと具体的なことが気になる方に。SaaStrが面白い理由って、SaaSの会社の中でも、ビジネスサイド(マーケティング、セールス、カスタマーサクセス)にフォーカスした学びを提供してることなんですよね。セッションの中でも、「AI時代にCSに期待される役割ってなに?」「これから採用すべきセールスってどんな人?」みたいな話もあちこちでされていました。
もっと突っ込んだことも話されていましたが、まとめるとこんな感じでした。
セールス:
AIに代替されそうなこと: 営業資料や議事録の作成、リードスコアリング、アウトバウンドメッセージング、商談準備
ヒトにしかできなさそうなこと: 顧客のニーズの深い理解と共感、信頼関係づくり、価値の共創、感情的なつながり、人材の育成
マーケティング:
AIに代替されそうなこと: ファーストドラフトの作成、データ分析、ターゲティング、スケジュール管理
ヒトにしかできなさそうなこと: ヒトの介在が避けられないチャネル(イベント、紹介、パートナーなど)、心に響くブランドストーリー作り、顧客の感情の理解、感情に訴えるメッセージングの作成
カスタマーサクセス:
AIに代替されそうなこと: 問い合わせ対応、使用状況のモニタリング、オンボーディング
ヒトにしかできなさそうなこと: 顧客のニーズの深い理解と共感、複雑な問い合わせ対応、感情的な顧客への対応、長期的な関係構築
共通してることは、AI時代だからこそ「人間らしさ」が差別化要因になるってことでした。業務の多くがAIで効率化・自動化されればされるほど、人間同士の感情的なつながりや信頼関係の価値がむしろ高まるというパラドックスが起きそうですよね。
3. スタートアップの最強の武器は「スピード」
Moat(堀)って「競合から自社を守る持続的な競争優位性」のことなんですが、AI全盛期時代に「1年で数兆円に成長しました!」みたいな会社が出てくると、「どうやったら持続可能な強みって作れるんだ?」も大切な議論ですよね。
”everyone has to move faster” — Jason Lemkin, Founder of SaaStr
(すべてのスタートアップは、以前よりも早く動く必要がある)
今回のカンファレンスでめちゃくちゃ強調されていたのが、「スピード」が現代のスタートアップにとって、より一層大切になるということでした。技術的なイノベーションが早く、真似されやすい時代だからこそ、どれだけ速く変化できるか、顧客の声をどれだけ早く製品に反映できるか、という組織力が差別化の鍵になるのかなと思います。
「人間的なつながり」はAI時代の大切な強み(=Moat)としてはっきりしてるけど、これからはどんな技術が出てくるかわかんないから、とりあえずマーケットの変化に対応しようね。取り残されちゃダメだよね。ということなのかもしれないですね。
4. ソフトウェアじゃなくて、顧客の仕事の「あるべき姿」を売ろう
SaaSの世界では、もはや優れた機能を持つソフトウェアを売るだけじゃ足りなくなってきています。今回のカンファレンスで特に頭に残っているのは、この言葉です。
”Selling the work, rather than selling software” — Jack Newton, CEO & founder of Cleo
(ソフトウェアじゃなくて、あるべき仕事の姿を売ろう)
今の時代にお客さんが本当に欲しいのって、今の業務フローを改善するソフトウェアじゃなくて、働き方そのものなんですよね。「機能」を売るんじゃなくて、その製品で実現できる「新しい仕事のあり方」を売るべきだというわけです。
AI時代の顧客の意思決定者って、「今の時代って、AIで何倍もいい働き方できそうだよね?でも、社員は目の前の業務で忙しいし、どこから見直したら良いんだろう?」という状態の方もいそうですよね。そこで、今の業務の課題解決を任されていたソフトウェア企業の僕たちが、意思決定者との対話を通じて、「仕事のあり方」を一緒に見直すことも必要になってきているわけです。
まとめ - AI時代にSaaSビジネスはどう変わる?
SaaStr Annualを通して強く感じたのは、AIの進化で私たちの仕事や役割は大きく変わるということ。そして、それぞれのチームの取り組み次第で、ヒトが「淘汰される」のか、それともAIと「共存する」のか分かれるということ。
今回学んだ重要なポイントをざっくりまとめると:
AIは単なるツールではなくビジネスの基盤になる - 顧客体験だけじゃなくて、業務や人間の役割そのものをAI前提で再設計しよう
感情的なつながりの価値が高まる - AI時代でも、信頼関係や感情に訴える力は代替されない価値だよ
「スピード」こそが一番の競争力 - 技術差別化が難しい時代、対応や学習の速さがより重要になる
今の業務の課題解決ではなく、その仕事のあるべき姿を売る - 顧客が今見えている課題から一歩引いて、あるべき姿を考え提案することが大切
これからのSaaS業界で成功するのは、AIのパワーを最大限に活用しながらも、ヒトにしかできない価値の創造、特に感情的なつながりや信頼関係を大切にできる企業だと思います。
テクノロジーはどんどん進化しても、ビジネスの本質は「ヒトとヒトとのつながり」にあるという原点、忘れないようにしたいですね。
SaaStr Annualのセッション録画はこちらからご覧いただけます: