米国の資本政策(その②)
スタートアップ社員のセカンダリー取引について
こんにちは。小澤です。年が明けて2週間以上が経ちますね。早いなあ。
ところで、Nstockでは、社員全員で京都に合宿に行きました。Nstockの合宿は、真面目なトピックを共有・議論する時間と、それ以外のアクティビティを楽しむ時間があります。私は、初日はお酒を飲み歩くチーム、2日目は大文字山に登るハイキングチームでした。
こうやって楽しい時間を一緒に過ごす一方で、仕事にも真摯に取り組むカルチャーがあります。経験あるプロフェッショナルが、自分のKPIの達成に向けて頑張るだけじゃなく、チームプレーにも献身的に取り組む姿勢が素敵!
今組織がうまく回っているのは、採用やカルチャー作りもうまくいってることもありますが、個人的にはNstockの昇給・評価制度が効果的に機能していることが大きいのかな〜なんて思っています。
現時点では、期初に全社で設定した目標を全て達成することで、全社員が昇給する仕組みなので、全員が持ち場で頑張りつつも、他の部署の目標達成にもコミットする。緩さと固さのメリハリだけでなく、個人プレーとチームプレーのバランスが良いカルチャーで、個人的にはすごくやりやすい。
さて、前回に引き続き、アメリカの資本政策について書いていこう!今回は、セカンダリー取引について。
目次
どんなメリットがあるの?
どんな会社がセカンダリーをやるといいの?
セカンダリー取引ってなに?
発行された株式や債券を、投資家間で売買する市場のこと。「流通市場」とも呼びます。企業が株式や債券を発行して資金調達する市場のことは「プライマリー・マーケット」「発行市場」といいます。
要は、会社が新たに資金調達をする為に株式や債権を発行して、資金調達をする際に発生する取引はプライマリーですが、すでに発行済みの債権や株式を投資家間で取引することをセカンダリーと呼びます。
ちょっと難しいですが、プライマリーとセカンダリーをそれぞれ分けて分けてお話しようと思います。まずはプライマリーから。先ほどお話した通り、プライマリーは「企業が」「新しく発行する株式や債権を取引する」市場になります。
図示すると、こんな感じ。
一方で、セカンダリーは何かと言うと、投資家の間で売買される取引のことでしたね。一番大きな違いは、「スタートアップが」「新規に発行する株式などを」取引するのではなく、「投資家同士で」「過去に発行した株式などを取引する」市場になります。
こんな感じですね。「投資家」と言っても色々あるので、もう少し分類してみましょう。一番わかりやすいのは、「誰が売るのか」によって分類するやり方かなと思います。
セカンダリーって、なんで必要なの?
3つのセカンダリー取引を紹介しましたが、いずれのなんでセカンダリー取引も、スタートアップエコシステムが発展する為には必要になるのかなと思います。
スタートアップエコシステムが発展するには、「スタートアップ業界に流れ込んでくるお金の質と量」が大切になります。
機関投資家、ベンチャーキャピタル、スタートアップの従業員、色んな投資家がいますが、エコシステム全体の発展の為には、スタートアップに懸けた人たちが適切なタイミングでリターンを得て、次もスタートアップに投資したいなと思ってもらうことが、「スタートアップ業界に流れ込んでくるお金の質と量」に直結します。
その為には、セカンダリー取引は欠かせないものかなと思います。
少し話が外れますが、「リターン」って何でしょう?
① 金額:投資した金額に対して、どれだけ金額が得られるか
② 時間:投資したタイミングから、それくらいの時間でそのリターンが得られたか
この2つの概念によって、リターンは決まります。
①の「金額」は、スタートアップが大きく成長して投資家にリターンを返すことしか方法はありません。
②の「時間」の概念は、セカンダリー取引が貢献できるところですね。本来であれば、上場などのイベントを待たないとリターンが得られなかったけど、セカンダリー取引を行うことによって、リターンを上げることができます。
仮に「スタートアップに投資したけど、投資した時点から想定以上に長い時間売れなかったせいで、リターンが低いことが多いなあ」と思われたら、「またスタートアップに投資したい!」と思ってもらえないかもしれません。
つまり、スタートアップにお金や労働を対価に株式などを受け取った人たちが、スタートアップエコシステムに懸けてよかったな、と思ってもらえる為にセカンダリー取引は存在しているのかなと思っています。
機関投資家やベンチャーキャピタルだけでなく、スタートアップで働く個人も、自身の労働を対価にSOなどを受け取っている投資家です。そんな投資家たちが「期待するExitのタイムライン」と「実際に会社がIPO/上場をするタイムライン」 のキャップを埋める手段として、セカンダリーは役に立つ訳ですね。
スタートアップ役職員のセカンダリーって?
3つセカンダリー取引を紹介しましたが、その中でも、スタートアップで働く私たちに身近な、スタートアップの役職員が売り手になるセカンダリー取引について、もう少し深ぼってみます。
ベンチャーキャピタルや機関投資家が売り手になるセカンダリー取引は、私達個人にとっては、関わりが少ないものです。が、スタートアップで働くわたしたち個人が売り手になるセカンダリー取引は特に気になりますよね。
かくいう私も、Nstockが成功してある程度の時価総額になったら、SOの一部を行使して、セカンダリー取引で売りたいと思っています。
投資家の立場から見ると、主要メンバーが上場前のタイミングで株式を売ってしまうことを警戒する場合もあります。が、いくつかのポイントに気をつけつつ進めることで、会社関係者に納得してもらえるだけでなく、採用、リテンション、資本政策面の武器としても有効なセカンダリー取引にもなります。
このセカンダリー取引について、売り手になるスタートアップの役職員と、取引を主催するスタートアップの立場から、もう少し詳しく見ていきましょう。
売り手=スタートアップの役職員のニーズ
それは、一言で言うと「役職員がお金が必要なタイミングと、実際にお金が入るタイミングが違うから」だと思います。詳しく見ていきましょう。
スタートアップの株式には流動性がない
そもそも、スタートアップの株式やストックオプション(以下SO)は、流動性がありません。会社が上場するまで、誰でも売ったり買ったりできるアセットクラスではないので、「今売りたい!」「今買いたい!」と思っても、自由に売ったり買ったりできないですよね。
創業から上場までの時間が長引いている
アメリカ、日本共に、創業から上場までの時間は長くなっています。アメリカの場合、平均すると創業から上場までは15年程度、日本でも年ほどになっています。その間、会社としては事業も企業価値も上がっていますが、株式には流動性がないので、その株式を保有している投資家、創業者、役職員に換金する機会は与えられません。
上場までに役職員個人の資金ニーズがある
先ほどもお話した通り、スタートアップが創業されて上場するまで15年かかります。その間に、スタートアップで働く個人は結婚、出産、子どもの学費、マイホームの購入など様々なライフイベントにまつわる出費が発生します。会社が上場するタイミングと、数百人規模の役職員の現金が必要になるタイミングを合わせることは相当難しそうですよね。
主催者=スタートアップ側のニーズ
ここまでは、役職員の立場からセカンダリー取引の意義についてみてきました。一方で、会社側にとってもセカンダリー取引を行うメリットはあります。
エンゲージメントの促進
まずは、エンゲージメントの促進です。SOを付与する際に、説明会を開催したり、企業価値に応じてSOの価値をシミュレーションできる資料を配布される事務局もいらっしゃいますよね。ですが、実際にセカンダリー取引でSOを行使・売却してもらうことで、「SOってホントに価値あるものなんだ」「頑張った分だけ報われるんだ」と実感してもらうことが、一番リアルで即効性のある説明手段ではないかなと思います。
特に、最近上場を延期する予定がある/した会社様にとっては、「会社都合で上場は伸びるけど、個人のキャッシュニーズも鑑みてセカンダリーやるからもう少し一緒にがんばろうよ」と社員の不満を吸収する手段にもなり得るのではないかなと思います。
採用力の強化
セカンダリーが魅力的に映るのは、既存の社員だけではありません。アメリカのデータを見ると、過去に役職員向けのセカンダリー取引を行った会社では、採用候補者のオファー承諾率が上がる傾向にあるようです。また、採用選考後にオファーを獲得できた場合に「過去にセカンダリー取引を行ったか/これから行う予定があるか」を確認することが転職活動Tipsとして広まっています(例:こちら)
活躍した分だけSOを現金化できるチャンスがあることは、もちろん魅力的ではあるのですが、それ以上に「この会社ってセカンダリーを行っていて社員想いなんだな」というイメージ付けができることも大きそうですね。
柔軟な資本政策(SOを上場する理由にしない、行使期限)
セカンダリー取引を行うことで、柔軟な資本政策が可能になります。税制適格SOの行使期限が15年に延長されましたが、中には10年の会社もありますし、SOの行使期限が迫っていることが、上場時期を決める一つのプレッシャーになる事例もあります。
また、レイターの会社になると、SOのプールが創業者一人の持ち分と同じくらい大きくなることもあるかなと思います。その場合、新たに優先株を発行して資金調達を行ってしまうと、既存株主の希薄化が進んでしまいますが、役職員に配布しているSOを行使・売却した普通株を優先株の調達に混ぜることで、既存の投資家が想定していた以上の希薄化を避けつつ、チケットサイズが大きい投資家を迎えることもできます。
どんな会社が役職員向けのセカンダリーをやると良いの?
ここまで、セカンダリー取引の概要と、スタートアップの役職員と会社側の立場から取引を行うメリットについて述べてきました。
ここまで読んで、「スタートアップ役職員向けのセカンダリー取引って、全ての会社にフィットするものではないのかな」と察して頂いている方もいらっしゃるかもしれません。その通りで、Nstockが提供する予定のセカンダリーも、「特に、こんな会社には選んで頂けそう」というイメージがあります。
アメリカの事例を踏まえつつ、どんな会社がセカンダリー取引を行うと、最大限メリットを得られるかを見ていきたいと思います。
一定の時価総額以上の会社
いきなりこれを書くと偉そうに感じるかもしれませんが、データとしても、実際にセカンダリーの商談でお客様の声をヒアリングする中でも感じることとしても、時価総額は一つの基準だと思います。
なぜかと言うと、そもそもセカンダリー取引は買い手がついてこそ。未上場の段階でSO(を行使した株式)に流動性がつくのは、会社や役職員にとっては良いことです。が、一方で買い手になる投資家にとってもメリットがないと、取引は成立しません。
結果として、アメリカのセカンダリーマーケットでは、Stripe、Rippling、OpenAIなど、未上場の中でも時価総額がトップクラスの企業が取引額の25%を占めています。上場株の中でも、Magnificent7と言われるFacebookやAmazonなどの7社に取引が集中していますが、未上場株でも同じような現象が起こっている訳ですね。
日本で、ここまで未上場で時価総額が大きいテック企業はそもそも存在しませんが、今後セカンダリー市場が盛り上がっていくと、一定以上の時価総額の会社に取引が集中することになるだろうなと想像しています。
創業からある程度の時間が経っている
セカンダリー取引を行って、役職員に感謝されるのは、創業から一定の時間が経っている会社かもしれません。先程もお話した通り、スタートアップが創業されて上場するまでのタイムラインは長期化しています。
役職員個人にとってお金が必要なタイミングと、会社がExitするタイミングが一致しないことが多いとお話しましたが、特に創業からしばらく時間が経っている会社だと、そう感じる場面も増えていきます。
また、特に上場を延期したり、事業を一部ピボットしたり、人員削減を行ったりなど、「会社のステージに応じて痛みを経験したけど、上場に向けてもう一段階成長したい」そんな会社には、相性が良いプロダクトだと思います。
この半年、様々な会社の経営陣やCFOの方とお話しましたが、セカンダリー取引をやろう!と決意する会社の気持ちとしては、「みんなでもっと大きい夢をみたい」「色々あったけど、みんなでもう一回頑張ろうよ」という気持ちが大きいのかなあ、とも思います。
スケールするまでたくさんの人が必要
セカンダリー取引は、魅力的な報酬制度だなあと思っています。もっと言うと、SOの価値を実感してもらう為の、攻めの報酬制度としての役割も果たすのかなあと思います。
今SOを保有している社員にとってありがたい制度であるだけでなくて、アメリカではこれから採用したい層をアトラクトする手段としても機能する可能性があり、採用力やエンゲージメントの強化など、人事面でも広く認知されています。
特に、事業のスケールに当たって人数が必要になるような事業を展開している会社にとっては報酬制度としてのセカンダリーのメリットを享受しやすいのかなと思っています。
ディープテックやSaaSの会社
商談中に様々な会社様からフィードバックを頂く中で、特にこの点を実感しました。
ディープテックについては、技術実証から売上に繋げるまでに時間がかかるビジネスです。アメリカのSpaceXのように、日本でも役職員向けのセカンダリー取引をうまく活用しつつ、上場のタイミングをできるだけ遅らせるケースがうまくフィットするのかなと思います。
SaaSは、スケールするまでにどうしても人員が必要になる場合が多いですよね。会社主催のセカンダリー取引を行うことで、「あの会社は社員を大切にしている」というPRがうまく機能すると、リテンションと採用力の向上に繋がりますし、それが会社のKPIの成長に繋がりやすい業種なのかなと思います。
注:もちろん、すべての条件に当てはまる必要はなく、一つでも「これ、まさにウチの会社だなあ」と思い当たる場合は、ぜひ役職員向けのセカンダリー取引も一度検討してみると良いのかなと思います。
あとがき
アメリカでは、セカンダリー取引を有効に活用することで、スタートアップの役職員などに還元する仕組みがある
売り手になるスタートアップの役職員だけでなく、スタートアップ側にもメリットがある
時価総額が大きかったり、創業から時間が経っていたり、スケールするまでに一定の人数が必要な会社は、特にセカンダリー取引の恩恵を得やすい
以上になります。
ここまで書いてきたセカンダリー取引ですが、Nstockでは今年半ばからプロダクトをご提供する予定です。すでに、一部の会社様とはNDAを締結させて頂いた上でセカンダリー取引の準備作業をお手伝いさせて頂いております。
もしご興味を持って頂いた場合は、弊社で提供する予定のプロダクトのご説明などさせ頂きますので、小澤までDM、もしくはこちらのフォームでご連絡頂けますと幸いです。
参考記事
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